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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)279号 判決

(当事者間に争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件登録意匠が別紙図面(一)記載のとおりであること、及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件登録意匠の本質的重要部分は、願書添付の図面から正確に特定することが可能であり、また、この部分を含む全体としての二又腕の態様にみられる相違は、当業者が常識をもつて合理的に理解できる範囲の微差にすぎないものであるから、願書添付の図面を統一的、合理的に判断すれば、本件登録意匠の具体的構成は十分特定することができるにもかかわらず、本件審決は、願書添付の図面から本件登録意匠の形態を把握することができず、したがつて、本件登録意匠は、その特定性を欠き、意匠法第三条第一項柱書きに規定する工業上利用することができる意匠に該当しないとの誤つた結論を導いたものであつて、違法として取り消されるべきである旨主張するが、原告の右主張は、すべて理由がないものというべきである。すなわち、

成立に争いのない甲第三号証の一及び二(本件登録意匠の願書及び添付図面)、第五号証の一及び二(昭和五一年一二月一〇日付意見書に代わる手続補正書)によれば、本件登録意匠は、意匠に係る物品を電気かみそり用カツターとする意匠であつて、願書中の意匠の説明の欄には、「背面図は正面図と、左側面図は右側面図と各々対称にあらわれるため省略する。」との記載があり、かつ、添付の図面には、別紙図面(一)記載のとおり、右意匠に係る物品の正面図、右側面図、平面図、底面図及び斜視図が図示されていることが認められるところ、右各図面の記載からすると、本件登録意匠の形態は、電気かみそり用カツターのデイスクの基部の周りに形状の異なる二本の二又腕を有するほぼ同型のY型腕が六個、いずれも平面図からみて右回りに等間隔をもつて配置され、各二又腕の先端部分は垂下され、かつ、その端面が円周方向から折れるように回転方向に向かつてねじられ、その先端に設けられた刃部は、右デイスクの中心軸から外側に向かつてのばした放射線に対しその外端が回転方向と逆方向に約三〇度の角度をもつて設けられていることが認められ、右形態からすると、Y型腕の先端より垂下された二又腕の端面の形態については、背面図は正面図と同様に、左側面図は右側面図と同様に表れるはずで、背面図と正面図が、また、左側面図と右側面図が対称に表れることは、正面図及び右側面図自体の形態が左右対称である場合以外は有り得ないところ、願書添付の図面によれば、正面図及び右側面図自体の形態が左右対称ではないから(この点は、原告の認めるところである。)、結局、願書に記載された意匠の説明は誤つていることになり、本件登録意匠の図面の記載と意匠の説明とは一致していないことになる。原告は、右意匠の説明にいう「対称」とは、「回転対称」と解することができる旨主張するが、意匠登録出願に際して、願書に添付することを要する意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面は、意匠法施行規則第二条様式第5備考欄8により正投象図により作成した図面であることを要し、右図法において「対称」とは「線対称」をいうものと解すべきであるから、本件登録意匠の意匠登録出願の願書に添付した図面も正投象図法により作成されたもので、その「意匠の説明」の欄に記載の「対称」なる文言も「線対称」を指称するものと認めるべきであり、したがつて、原告の叙上主張は採用するに由ない主張といわざるを得ない。ところで、本件登録意匠の形態は、前認定のとおり、カツターのデイスクの基部の周りにほぼ同型のY型腕が六個、いずれも等間隔をもつて配置されているものであるから、各Y型腕は、いずれも六〇度の間隔をもつて配置されているものと認められ、正面図(背面図)と右側面図(左側面図)とでは三〇度の位相のずれがあり、したがつて、正面図(背面図)と右側面図(左側面図)とが対称に表れることはもちろん、同一に表れることもないはずであるところ、願書添付の正面図と右側面図とは、両者を対比すれば明らかなようにほぼ対称に記載されており、願書添付の図面中正面図と右側面図も整合していないこと明らかであり、更に、願書添付の平面図と底面図を重ね合わせてみると、両図は別紙図面(五)第3図の赤線で示す箇所において重ならず、ほぼ同一であるということができるとしても同一であるとはいえないことも明らかであり、また、更に、正面図と平面図とが整合しないことは別紙図面(五)第5図及び第6図の記載から明らかである。以上のように、本件登録意匠は、願書添付の図面と意匠の説明との間、正面図と右側面図との間、平面図と底面図との間及び正面図と平面図との間に前認定説示のような一致しない点があり、しかも、その違いの程度はわずかなものではなくて顕著であるから、結局、本件登録意匠は、参考斜視図を参酌しても、特定し得ないものといわざるを得ない。原告は、本件登録意匠のうち、本質的に重要な部分は、二又腕の端部の曲がり具合とひねり具合、刃部の形状及び各刃部相互の位置関係であることは明白であり、右の点は願書添付の平面図、底面図及び斜視図から正確に特定することができる旨主張するが、願書添付の参考斜視図によれば、二又腕の端部が曲げられ、ねじり(ひねり)が加えられていることを部分的に見いだすことができ、かつ、本件登録意匠に係る物品が電気かみそり用カツターであることや右参考斜視図を斟酌して平面図及び底面図をみると、前認定のとおり、二又腕の先端部に形成された刃部の向き及び各刃部の間隔が等しいことは認められるものの、右図面からは、意匠に係る電気かみそり用カツター全体の二又腕の曲がり具合、ひねり具合(ねじり具合)を特定することができないばかりか、かえつて、本件登録意匠の正面図及び右側面図には、原告が本件登録意匠の本質的部分であると主張する二又腕の端部の形態として、「曲げ」も「ひねり」(ねじり)もない垂直な二又腕の端部も描かれていることが認められ、結局、二又腕の曲げの状態やひねり(ねじり)の状態を具現すべく描かれた正面図及び右側面図から本件登録意匠における二又腕の曲がり具合やひねり具合(ねじり具合)を特定することはできず、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、意匠登録出願の際に添付する図面は、創作した意匠を意匠登録用に改めて描き直したものであるから、図面即意匠ではなく、図面が人の手によつて描示されるものである以上、そこに間違いや不備が起こるのは当然であつて、看者がその図面を直ちに実施できるものである必要はなく、各図が大体において一致しており、不一致箇所が当業者の常識をもつて合理的に善解し得る余地があるときは、意匠は特定され、具体化されているものというべきである旨主張するが、出願に係る意匠は願書に添付される意匠を記載した図面(あるいは図面に代わる写真、ひな形又は見本)それ自体によつて完結的に明確に特定されなければならないのであつて、前認定のとおり、本件登録意匠においては、意匠の説明と図面が一致しないばかりか、図面相互も一致しておらず、しかも、その違いは明らかな誤記と認められるようなものではないから、出願に係る意匠が図面それ自体によつて完結的に特定されているといえず、したがつて、原告の右主張も採用することができない。更に、原告は、積極的に参考斜視図を活用して意匠の特定に努めるべきである旨主張するが、前認定のとおり、本件登録意匠においては、参考斜視図を十分参酌しても、出願に係る意匠を特定することができないのであるから、原告の右主張は、採用の限りでない。

叙上認定説示したところによれば、本件登録意匠は、意匠登録出願の願書添付の図面と願書に記載された右意匠の説明とが一致しないばかりか、右図面相互も相互に一致していないから、右図面及び意匠の説明に基づいてその意匠、特に二又腕の端部の形状を特定することはできないものといわざるを得ず、しかも、二又腕の端部の形状は、本件登録意匠を構成するうえで重要な部分であるということができるから、この部分について特定性を欠く意匠は、結局、本件審決の認定判断のとおり、意匠法第三条第一項柱書きに規定する工業上利用することができる意匠に該当するものということができない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。

〔編註その一〕 本件における事実関係は左のとおりである。

第一 当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和五六年六月二二日、同庁昭和五三年審判第一四〇〇七号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、主文第一項及び第二項同旨の判決を求めた。

第二 請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五〇年一二月一一日登録出願(優先権主張一九七五年(昭和五〇年)六月一三日ベネルツクスデザイン条約)、昭和五二年九月二二日設定登録に係る意匠に係る物品を「電気かみそり用カツター」とする別紙図面(一)記載のとおりの登録意匠(以下「本件登録意匠」という。)の権利者であるが、被告は、昭和五三年九月一四日、原告を被請求人として、本件登録意匠の無効審判を請求し、昭和五三年審判第一四〇〇七号事件として審理された結果、昭和五六年六月二二日、「本件登録意匠の登録は、これを無効とする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年七月二〇日原告に送達された(出訴期間として三か月付加)。

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